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本屋で居合わせた人の顔を見て
奇遇ですね と、会釈こそすれ とりたてて話す事も無く 本の波に逸れていく 濡れそぼった傘の先 伝う雫さえ落ちぬ間に 外は雨 早い台風の予兆をはらんだ オモチャみたいな折り畳み傘は 「雨風」を凌げない 降る雨の力に負けるときを 待って、逃れて 早足で駅へ向かう雑踏に混じって むせ返るような季節は過ぎたので 構内には人々が集めた仄かな水の冷気で いっそうひっそりと沈む鼠色のホーム 早く帰りたい人ばかり ゆらゆら疲れてギシギシの電車が滑り込んでくる 薄い紙袋から透けたタイトルは 始めから冷たいから気が置けない 仄かな熱を集めながら 最後の最後に笑顔になれると 作者はそういう信条を持っている人だ 暖かい部屋で 美味しいものを食べて 寝具を整えているときでさえ 救われたい気持ちは棲んでいる そういうものを見留めることで 生活を切実で現実的なものへ繋ぎ止める事もある そう考えようと お互い話し合った人さえ 本の波に逸れ合う日が来るけれど 過ぎた事は嘘ではないと もう知っているから 知らない事とは違うでしょう 外は雨 一層水の強い音 名が変わる 季節の ![]() そこに置かれた言葉に惑って 少し胸が痛んでも 季節は変わらず嫋やかに 便りの中にあるから 哀しいとは思わない ![]() 「また明日」 なんて言ってしまっても 今日のような「また」は もうやってこないかもしれないのに ![]() 孤独を愉しむ大人達が 携帯片手に青空カフェの席に着く そのうちの一人は同時にどうしようもなく 黒い蝶がとまるイメージが離れなく でもそれは やがて水辺から流れていくものだ ![]() わたしは一人きりで生まれた事を 思い出したので あの子もあの人も いない世界で 今度は意志を持って 一人きり わたしのことを見つめるため 初めての一人の旅です 四半世紀を少し過ぎ 新世紀は跨ぎました でも次の新世紀には届かぬ命でしょう その最期に 連れて行けるものを 探す旅です
「嫌な事って、忘れてしまって
いい事しか 残らないんですよね」 カラリと笑った女の子の言葉が 終電の空席に余韻を残して その言葉の隙のなさに 胸がグッとなること 数回 夜が遅くなるほど帰りたくなくなるのは ただの惰性で 特に理由などない 最寄りの駅のホームで感じる正しい寒さに胸は鳴る 浅い眠りから戻ると 古い雑誌を片っ端から整理して 私が何に興味をそそられてきたのかを 乾いた古紙から改めて指先で確認する 変わらず本棚に片されるもの 頓着無く処分するもの 心の移り変わりの激しいこと これは悲観ではないでしょう 何もかも抱えたままで行ける場所なんて無いと ご都合主義で結構と 捨てられていくものどもに言い訳をする 「乖離するくらいなら 始めから知り合うことなどなければよかったのに」 当時の切実さが閉じていたベージからはらり 何度も思ったこと 今となってはどうしてかと首を傾げてしまう 戻りたい分岐点はあっても そこから確実に途絶えてしまう縁など思えば 考えるだけなのに竦んでしまう臆病さ 愛おしさ よかったことをたくさん覚えている とは 何と素敵なことだろう 持続する感情など無くとも ただ存在し続ける記憶があって そこに微かな熱がある 口にするのも惜しい カラリと笑ってそっと胸に留めたい 思い出すだろう いつかそれが 一瞬の感覚と変わってしまおうとも ![]() 春の野原 名ばかりの愛嬌 春の野原 夢みたいにキレイな言葉 春の野原 熱波に負けない決意で 初夏の吐息を待っている ![]() 春を待ちわびたあなたが いつかそうしてくれたように 僕の手には 小さな手 この春に 勇んで始まっていく子 あなたへと 返すべきだった思いは もう言葉になぞせず 今 仕舞って 僕はこの春に終わっていく ![]() 本当の事を言ったのに 後ろめたくて目を逸らした 本当 だけが 正しく 等しく 救うわけじゃない わかってる 今 苦しいのは 受入れたくないだけ 受入れてほしくないだけ でも 私達はもう 此処に居られない 例え嘘をついて 笑いあっても しらじらしくて それこそ 救いようの無い苦しさだ
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蒼色
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